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【乗り物の絵本をめぐる対談】子どもと限りあるかけがえのない時間を、いつもかわらず、いつもあたらしく(小風さち☓荒川薫)

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乗り物絵本の魅力について、対談形式で行なったこちらの講演。ゲストには、大学卒業後に「こどものとも」編集部に所属。編集者として、そして後に童話作家として『あしたてんきになあれ』や『ともこのかいすいよく』などを執筆された荒川薫さん(写真右)。
そして、1977年から10年間ロンドン郊外に暮らし、『わにわにのおふろ』などの「わにわにシリーズ」や、『とべ!ちいさいプロペラき』『はしれ、きかんしゃちからあし』などの乗り物絵本で知られる小風さちさん(写真中央)をお招きしました。
福音館書店の書籍編集部長の古川(写真左)を司会に、それぞれのキャリアを紐解きながら、お二人の絵本にかける思い、そして乗り物絵本の魅力について語っていただきます。

■スキポール空港での思い出から生まれた、デビュー作

——今日は会場の後ろの方で『とべ!ちいさなプロペラき』の特別展示をさせていただいていますが、これは小風さちさんの初めての作品です。絵を描いていただいたのが『しょうぼうじどうしゃじぷた』(以下、『じぷた』)の山本忠敬さん。みなさん、愛着を込めてチュウケイ先生とお呼びしておりました。まずこの作品のお話からうかがいたいと思っています。

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小風:そう思って記憶を整理してきたのですが、実は自分が乗り物を主人公にお話を考えるとは、想像もしていませんでした。私は特に乗り物が好きな子どもではなく、興味も人並み程度。馬に乗ったりするのは好きだったんですけれども、馬は動物ですものね。

ではどうして『とべ!ちいさいプロペラき』を書いたのかと申しますと、ご紹介いただいた通り、私はイギリスに10年ほど暮らしていたのですが、帰国する際、当時は直行便がなかったので、オランダのスキポール空港で乗り継いだんです。

滑走路を見ていると、これから離陸をする飛行機たちが列を作っているのが目に入りました。管制塔の指示があると順番に離陸するわけなんですが、その中に、どういうわけか小さなプロペラ機が一機混じっていたんです。

大きなジェット機の中で、そのプロペラ機がいかにも小さくて「何かの間違いなんじゃないか?」と思ったくらいなんですが、その小さいプロペラ機はちゃんと順番を守って、自分の番がくると進み出て行って、プルプルと加速して飛び立っていたんです。その光景がずっと心の中にありました。

実は、私は作家を目指したことはないんです。ただ、生きていく中で自分に何ができるのか、必死になって考えていたら、壁から土塊がポロポロ落ちてくるように、言葉が落ちてきました。それを拾い集めて、お話にしました。その繰り返しの人生なんです。

——この作品が「こどものとも」に掲載されたのは1989年でした。苦労しながら書き上げていただいたと思いますが、『しょうぼうじどうしゃじぷた』がヒントになったともうかがっています。

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小風
:当時担当してくださった編集の方に「もっと乗り物の気持ちになって書いてください」と言われまして。私は女性で、幼いころ乗り物のおもちゃで遊んだ経験がありませんでしたから、乗り物に憑依してしまう男の子の気持ちや、乗り物に対する興味が、よくわかりませんでした。書こうとすると、乗り物の気持ちではなく、自分の気持ちで書いてしまうんです。

「ああ、もう私できない」と思ったそんな時に本屋さんにでかけ、そこで手にとったのが『しょうぼうじどうしゃじぷた』。すると、渡辺先生の文章がものすごく簡潔で、美しかった。帰って自分の原稿を読んでみると、すごく気持ちの説明が長いことに気がつきました。

——そんな小風さんのデビュー作が掲載された「こどものとも」に、初期の時代から関わっていらしたのが、もうお一方のゲストの荒川さんです。荒川さんは編集者として『じぷた』の絵のヒントになった作品も手がけていらっしゃいました。

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荒川:『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』のことですね。これは1961年に福音館書店から翻訳出版された絵本で、バージニア・リー・バートンさんの作品です。バートンさんは表紙から、見返し、扉、裏表紙までを効果的に使っていて、文字も絵の中に溶け込むようにダイナミックにレイアウトをされています。彼女の作品は、本まるごと一冊が自分の表現なんだという意識で作られていて、編集者としてとても勉強になったんですよ。

■絵本づくりにおける取材のあり方、思い出

−−絵本作りにおける取材のあり方もうかがってみたいです。「こどものとも」時代には、小風さんはどのように取材をなさっていたんですか?

小風:私はあまり器用な方ではないので、机の前に座っているだけではお話が書けません。なので、実際に足を運んで、目で見、耳で聞いたことを書くんですね。そうやって作ろうとしている世界を手探りしていると、ふっと言葉が降りてきてくれる瞬間が必ずあります。そうしたらしめたもの。帰って机の前に座って描き、またわからなくなると出かけて行く。

音というのも私にとっては大切なんです。例えば浜に打ち寄せる波の音も毎日違いますし、雨や風の音も違います。霧も流れる時には音がします。『トラトラトラクター』という絵本では、横浜のふ頭に取材に出かけました。トラクターは、荷台にコンテナを積んでいるときと、カラのときとでは、走行音が全然違います。取材から文章の感覚をつかむやり方は、乗り物絵本を作る過程から学んだことだと思います。

荒川:かけだし編集者だった私の場合はあまり取材をご一緒したということはないんですが、実際に「じぷた」に乗った思い出がありますね。「こどものとも」には毎号折り込みが入っていて、そこに松居直さんが保護者向けの文章を書かれていました。作者の渡辺茂男先生が「じぷた」のモデルになさった本当のジープを改造した消防自動車があるという記事のために写真を撮りに行ったんです。

その「じぷた」は埼玉県上尾市で活躍していた消防車で、駅からタクシーで出かけて撮影をしてきました。無事撮影も終わりさあ帰ろうと思ったら、周りは畑でタクシーなど捕まえられない。バスもなくて途方にくれていたら、消防署の方が駅まで送りますと言ってくださって、「じぷた」に乗ることになりました。

乗った時は「消防自動車に乗っちゃった〜」とはしゃいでいました。でも駅に着くと、周りに人だかりができてしまったんです。駅に消防自動車が横付けしたんですもの、驚きますよね。降りる時には本当に恥ずかしくて、ピョンっと飛び降りて、人目を気にしながら帰った覚えがあります(笑)。

——編集者には、そういう楽しい取材の思い出がありますよね。そんな乗り物絵本ですが、実際にお子さんに読み聞かせをなさった時の体験談などはありますか?

小風:私が子育てをしていたのはもう30年以上前になるんですが、よく読んだのは「かがくのとも」の『むかしのしょうぼういまのしょうぼう』。その頃私はロンドンにおりましたが、毎月届く「こどものとも」「母の友」「かがくのとも」には、お世話になりました。

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この『むかしのしょうぼういまのしょうぼう』もチュウケイ先生の作品ですが、消防自動車の歴史がわかるようになっているんです。うちの子どもは、たぶんそらで暗唱できると思いますよ。一方、現在孫がお気に入りなのは『てつたくんのじどうしゃ』。これは孫のものを借りてきたんですが、「さっちゃん、絶対返してね」と言われました(笑)。

私は乗り物絵本を書きながら、どうして男の子はこんなに乗り物絵本が好きなのかを、常々考えてきました。もしかすると、男性の持つ狩猟本能が、男の子を動くものに駆り立てるのかな、とか。また、男性は物事の仕組みに関心を持ちますよね。男の子ってよく、時計やラジオを分解しちゃうじゃないですか。仕組みに対する興味というのが、本能的に女性よりあって、それが男の子を乗り物絵本に駆り立てるのかな、と思ったりもします。

——それはなかなか興味深いお話ですね。荒川さんもたくさん読み聞かせをされてきましたが、乗り物絵本だとこんな反応があった、というエピソードはありますか?

荒川:記録をとっているわけではないので感覚的なことですが、やはり乗り物絵本だと子ども達の目つきが違いますね。特に男の子は本当に食い入るように入り込んでくる。小風さんと同じように、なぜ男の子は乗り物が好きなのか疑問に感じて、ある男性に聞いたところ「どうして女性は乗り物が好きじゃないのかわからないよ」と言われました(笑)。ただ、乗り物絵本でも「ちゅうちゅう」や「じぷた」のように、乗り物に性格があるお話は、女の子も同じように楽しんでいる気がしています。

——「じぷた」の場合、その表情の変化も見所です。少しまえかがみになっていたり、目に見立てたライト動きなどで、自動車ならではの表情をチュウケイ先生は表現なさっています。『とべ!ちいさいプロペラき』にも乗り物ならではの表情がありますよね?

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小風
:大きなジェット機が小さなプロペラ機を見て、困ったなあといった顔をしています。実は、先生は飛行機に乗るのが、大の苦手だったのですが、「頭が締め付けられるよ」と言いながらも、調布の飛行場でプロペラ機に乗ってくださいました。

自動車の場合、目を表すのはライトなんですが、プロペラ機の場合は窓。先生はその色の変化で、感情の機微を表現されたんですが、不思議とこういった工夫は子どもたちの方が先に気がつくんですよ。

■黄金期の記憶と、これからの絵本との関わり

——荒川さんには「こどものとも」の歴史も伺いたいと思っています。50号から100号まで携わられていたのですよね?

荒川:正確に言うと101号までです。その時は渡辺先生と、隅田川の消防艇の取材をご一緒したんです。船は停泊していたんですが、なぜか私は酔っちゃって(笑)。それ以降渡辺先生には「この人は、止まっている船で酔ったんだよ」と記憶されてしまいました。私が入社したのは1960年、退社したのが1964年ですから、実はたったの4年間の勤続でした。ただそこで、日本の絵本文化の新しい始まりに関わることができたんです。

——1964年というと、東京オリンピックが開催され新幹線が開通された年ですね。日本がようやく復興し、文化的なものが成熟し始めた時期で「こどものとも」のいわば初期黄金時代と言ってもいい時代と重なります。

荒川:本当に幸運な時代に関わることができたと思いますね。福音館書店は当時、絵本よりも学生向けの辞書を作る出版社として知られていたんです。私は古い日本語に興味があったものですから、古語辞典の担当者として入社しました。そこで与えられたデスクのお隣が、松居直(松居直/当時「こどものとも」編集長)でした。

お隣を覗くと何やら楽しそうでねえ。私はそこで絵本の世界を知って、なんておもしろい世界なんだろうとすっかり絵本の虜になってしまって、辞書を作りながら、わき見ばかりしていました。多分、わき見の熱意を買われたのだと思います。それまで松居さんがひとりで担当していらした絵本の編集に関わることになったんです。「こどものとも」の創刊からすでに4年が経っていたので、月刊絵本としても充実し始めていた時期でした。

——編集者時代に手がけた、思い入れのあるお仕事はありますか?

荒川:何もかもが素敵な思い出なので選ぶのが難しいですが、『とらっくとらっくとらっく』の話をしましょう。この本は、「こどものとも」の歴史を考える上で、とてもエポックメイキングな作品。というのも、それまで縦組みだった絵本が、この号から横組・横開きになったからです。

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今では横開きは普通のことですが、当時文字は縦に書くのが基本だったので、大変大きな反響をいただきました。ただ一方で、直接幼稚園や保育園に「こどものとも」を届けていた代理店の方々からは厳しい意見があがりました。皆さんが地方営業から戻られると、松居さんのところに報告に来られます。『とらっくとらっくとらっく』が刊行された直後はすごい剣幕で「縦のものを横にするとは何事だ!」とお怒りで。これまでの縦書きの絵本と一緒に書棚に入れた時に、横開きの本は飛び出してしまい、扱いづらいというんですね。

松居さんはそれを泰然と聞きながら、横開きにするともっと連続性を持った広がりのあるお話が生まれる、ダイナミックな表現ができるんだ、という意図と利点について説明されていたと思います。それで「ああ、そうですか」とはもちろんならなかったのですが、次々と横開きのおもしろい本が出たことで、異論反論はすぐに減っていきました。

——当時はやはり「日本語は縦書き」という教科書のイメージが強く、絵本でもそれが守られていた時代でした。翻訳絵本もわざわざ縦書きになおしていたので、本当に画期的なことなんです。では最後に、会場の皆さんに向かって、それぞれこれからどのように絵本と向き合っていきたいかをうかがってみたいと思います。

小風:私は今、子どもの本を作っていて、いつもふたつほど思うことがあります。ひとつは「これは子どもにはわからないんじゃないか」となるべく決めてしまわずに、物語を作っていきたいということと。もうひとつは、どんな歴代の名作も、それが誕生した時はみんな新作絵本だったわけで、臆せずに新しいことにチャレンジして、ワクワクしながら本を作っていきたいと思っています。

荒川:私は「こどものとも」の黄金期に仕事をさせていただいたことで、本当に多くの素晴らしい作り手の方々とお会いすることができました。当時作った本が今も読み継がれていることは、改めて考えるとものすごいことだなと、今ひしひしと感じています。

このイベントのチラシに掲載されている「いつもかわらず いつもあたらしく こどものそばに」という「こどものとも」創刊60周年のキャッチコピー、素敵な言葉ですね。変わりゆく時代の中で、時代ごとの新しいものを取り入れて本が編集され、そして毎月、子どもたちのそばに届く。月刊絵本のいちばん魅力あるところでしょう。

でも、よく考えてみると子どものそばに本があるのは大事なんですが、そばにあるだけじゃダメなんです。そこには本とともに、それを読んでくれる大人がいなければなりません。子どもは絵本が好きですが、それを読んでもらうことがもっと大好き。そして読んでもらった物語の記憶というのは、作者が誰であれ、読んでくれた人の声で耳に入り、心に残る。読んでくれた人の声と一緒に、物語を感じるんです。

読み手の気持ちや愛情。それを子どもたちは敏感に感じ取っていきます。ですから、子どもたちと過ごせるかけがえのない今を、どうぞ存分に本とともに楽しんでいただきたいなと思います。「絵本の読み聞かせってどういう風にするのかしら」なんて難しく考えずに、子どもと一緒に楽しむことだけを考えながら、「いつもかわらず いつもあたらしく こどものそばに」いて、絵本を読んであげてください。

<終わり>

※本講演録は2016年3月から21日間にわたって開催された「こどものとも60周年記念フェスタ〜あそぼうつくろう絵本の世界」の4/28の特別イベントの模様をまとめたものです。
※文中特に言及がない作品は福音館書店刊。