こどものとも60周年なんでもニュース

【講演録】絵本作家・田島征三をつくりあげた、小さきものたちの生命力

■生きものの「ぐりぐり」とした生命感 幼少期の思いを紡いだ作品たち

IMG_0690講演会の直前には、田島さんが採集した木の実を使ったワークショップも

ぼくの絵本作家人生の中で大きかったのが、『はたけうた』。誰でも描けるような抽象的な絵で、これを出せたのは、今までのスタイルを捨てたからですね。偕成社の『くさむら』も同じです。でもあまり話題にならなかったので、プロフィールに「特に我が国の絵本界では全く無視されている『はたけうた』『くさむら』は注目に値する」って書いているですよ。いまだに効果はないけれど、これを福音館書店が「こどものとも絵本」としてハードカバーに入れてくれたっていうのは、すごいことだよね。『はたけうた』を双子の兄である絵本作家・田島征彦に見せてみたら「おまんが描かんでも、こんなん誰でも描けるぜよ」って言うんです。でもそれは違う。「ぼくが描いたからぼくの絵なんだ」ってことにこの時気がつきました。自分にしか描けないもが「個性」だと思っていたけど、ぼくが描きさえすればそれがぼくの絵になるんです。

IMG_0750 淡水性のハゼ「どんこ」を捕る様子を、身ぶり手ぶりで話す田島さん

征彦とは子どもの時分、川で魚をつかまえたりして二人で過ごしていました。学校ではいじめられっこ。先生まで一緒になってぼくらをいじめるんです。だからなんとか学校に行かずに過ごそうと、雨の日でも風の日でも川や森で遊びましたね。魚を手で捕まえるのがぼくはうまくて、さっとどんこ(淡水性のハゼの仲間)を捕まえる。家族の分が捕れたら家に帰ってさばいて、天日で干したものを焼いて食べる。食糧難の時代だから、森でシイの実や山栗、アケビなんかも採っていました。

捕まえた魚は、手のひらの中で「ぐりぐり」って暴れるんです。向こうも命がけだから、こっちも体の半分以上水の中に入って命がけ。なんとか捕まえて「ゆきちゃん、太い魚捕まえたぜよ〜」と叫ぶと、征彦が走ってきて「わあ、大きいね」って、バケツの中をものすごい勢いで回っている魚を眺めます。「ふたりで半分ずつ食べようね」なんて言って目を離すと、さっきまで元気だった魚が死んでます。征彦は涙をぼとぼと落として泣きました。さっきまで生きていたのに、命がどこかに行ってしまった不条理、不在感を感じたのでしょうね。子どもだから言葉にはできないんだけど、悲しみや怒り、情けなさが押し寄せてきました。小川の小さな生きものたちが教えてくれた、宝物のような気持ちです。生きものの持ってるあの「ぐりぐり」とした生命感と、そしてそのはかなさを毎日のように体験しながら生きていました。

>>見捨てられた場所、返り見られたい者たちをアートで力づけられるか?

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