この人も好きだった「こどものとも」

思い出のこどものとも 西加奈子

nishikanako_3「思い出のこどものとも」の原稿のご依頼をいただいたとき、「いや私には「こどものとも」の思い出なんてないぜ」と、そう思ってしまった。でも、「こどものとも」の歩みをパラパラ見ていると、「あ! これ知ってる!」「これも!」「これもか!」、つまり、「こどものとも」があまりに身近にありすぎて、考えもしなかったのだった(例えば枕のことを聞かれているようなものだった、あまりにそばにありすぎて、枕のことなんて何も考えない、そんな風に)。

 とはいえ、「こどものとも」は私のおうちにはなかった(と思う)。私の母は、全然教育熱心ではなく(「勉強しなさい」と言われたことが、まじで、一度もない)、「子供の情操教育に良いから、ここは絵本よね!」というタイプではなかったので、うちにはただただ私がねだった面白そうで過激なおもちゃや、ときどき誰かにプレゼントしてもらった絵本が置いてあった。

というわけで私が「こどものとも」に「身近すぎる」くらいに出逢っていたのは幼稚園やお友達のうちだ(あまり家にいなかったということだ)。子どもの頃はもちろんそんな風に言語化出来なかったけれど、「こどものとも」シリーズは、清潔な絵本という感じがした。手に取ると自分が良い子になれるような、そんな気がした。身近にあるけどスペシャル、「こどものとも」はそんな存在だった。

nishikanako_4特に思い出に残っているのは、「おおきなかぶ」だ。「古い本」だと思ったことを覚えている。きっと『おおきなかぶ』の素朴で美しい絵を見てそう思ったのだろう。子どもが真似したいと思うのではなく、素敵な額に入れて飾りたくなるような絵だと思う。

この絵本は今も好きだ。おばあさんのお洋服がかわいいし、みんながただ前の人を順番に引っ張ってゆくのが面白いし、かわいらしい女の子のことを「まご」と呼ぶ潔さもかっこいい。「うんとこしょ、どっこいしょ」というかけ声にはまって、読みながら友達(やっちゃんだったか、りゅうちゃんだったか)と大声を出していた小さい頃の自分の気持ちもすごく分かる。

協力して労働することの大切さを教える?

そんなことはどうでもいい。39歳になった今でも、「うんとこしょ、どっこいしょ」を言いたい。なるべく大きな声で。あと、かぶがやっと抜けたとき、ネズミがかぶの上に載っている絵を見るとやっぱりわくわくする。あと、あと、実際に食べる大きなかぶよりも、この絵本に出てくるかぶは1000倍くらい美味しそう。

nishikanako_3西加奈子 作家
1977年テヘラン生まれ。2004年『あおい』でデビュー。2007年『通天閣』で第24回織田作之助賞、2013年『ふくわらい』で第1回河合隼雄物語賞。2015年『サラバ!』で第152回直木賞受賞。2016年2月に直木賞受賞後第1作となる『まく子』を上梓。