あの年に生まれた「こどものとも」

1991年 お人形が好きじゃない子にも読んでほしい「ひなまつり」のお話『もりのひなまつり』

1991_011991年度からご紹介するのは、毎年ひなまつりに大人気の絵本『もりのひなまつり』です。

『もりのひなまつり』は、お雛さまと森の動物たちのひな祭りの一日を描いた作品です。
森の近くの家の蔵に住んでいるねずみばあさんのところに、のねずみたちから「森のひなまつりをしたいので、お雛さまを森に連れてきてください」という手紙が届きました。そこで、ねずみばあさんはお雛さまと一緒に森に出かけます。
森でお雛さまたちは、動物たちと歌ったり、踊ったり楽しく過ごしました。楽しいお祭りが終わった後の帰り道、雪が降りだします。蔵に戻ったお雛さまたちはすっかり汚れてしまいました。そこで、ねずみばあさんは……。

1991_02この絵本の作者は「きつねのきっこ」シリーズでも知られる小出保子さんです。
『もりのひなまつり』は「お人形」がたくさん登場する作品ですから、小出さんが幼少の頃に大切にされていたお人形との素敵な思い出がお話の元になっていると思いきや、そうではないそうです。実は、小出さんは人形が嫌いな子どもだったとか……。2001年の折り込み付録に掲載されたエッセイをご紹介します。

「私は、人形が嫌いな子だったらしいんです。物心ついた時には、まわりに人形というものがなかった。それで母に『人形がほしい』といったんですよ。そうしたら、『あなた、ちっちゃい時に人形が嫌いで、買ってやろうとしてもいやがったのよ』という話で、そういわれてみると、人形って気持ち悪かったのかなあって、後で思うんですけどね。
市松人形のすごく立派なのを、隣のきょうちゃんっていうお姉さんが疎開するんで、自分の身代わりという形で私にくれたんです。ところが、私がとっても悪い持ち主でね(笑)。顔は汚れるし、髪はぐじゃぐじゃになるし。そうしたら、ある夜、きょうちゃんがやってきて、人形を返してくれっていうんですよ。母も驚いて、『すごく汚しちゃったから』っていったら、それでもかまわないから返してほしいって、それで返したんですけど。ほっとしたから、やっぱり人形はきらいだったんですね。
でも、嫌いなんだけど、嫌いなものって見ずにはいられない。興味をそそられるじゃないですか。3月に飾られるお雛様もね、なんかこう、動いてるんじゃないかという気がする。目をちょっとそらした隙に動いてるとかね。

1991_03それと育ったのが田舎の古い家で、鼠が多かったんですね。ちょろちょろ出てきていて。お雛さまを飾った夜、鼠が天井からおりてきて、母の寝床にもぐりこんだ事件があったんです。本当に大きな鼠だった。年寄り鼠だって、父はいうんですけどね。母の足にさわって、とっても冷たい手だったそうです。鼠は廊下の暗闇に消えてしまったけど、何かやっぱり、お雛さまに用があったんじゃないかと。ひょっとすると、鼠と人形が友だちというかね、何かあやしいんじゃないか、と思って。
例えば道を歩いていても、風もないのに葉っぱが1枚だけ揺れていたりすると、それは何かの印でね、何かそこにちっちゃなものがいるんじゃないか、って思うんです。そんな小さなものの世界が好きで、そういう世界を知りたいと思っていて、そのひとつの方法で、お雛さまと鼠の話になったんだと思います。
お雛さまはすましてるけど、実は毎年、鼠たちとこっそり何かしているんじゃないか。そう考えてワクワクしてしまって。お雛さまと鼠たちは、代々こんなことをしてきたんじゃないかと思えてくるんですね。
小学生から、『もりのひなまつり』が楽しかったという手紙が何通かきて、その中に『私は雛人形が大嫌いです』という女の子がいたんです。『やっぱりこういう子、いるんだ』って、ほっとしたんですけど。その子も、『嫌いだったんだけど好きになった』といってくれて、ちょっとはよかったかな、って思いました。それと、男の子がけっこう楽しかったっていってくれて、すごくうれしかったです。」

この年は他に、『たあんき ぽおんき たんころりん −たんたん たのしい うたづくし−』(5月号)、『おとうさんをまって』(12月号)などを刊行しました。1991_04

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