あの年に生まれた「こどものとも」

1995年 スペインの赤いトマトに思わず手がでそう 『ねぼすけスーザとあかいトマト』

DSCF4671スペインのオリーブ畑に囲まれた村で優しいマリアおばさんと元気に暮らすスーザ。とってもねぼすけなこの女の子が「こどものとも」にはじめて登場したのは、『ねぼすけスーザのおかいもの』(1991年2月号)でした。オリーブオイルもガスパチョもまだまだ日本の食卓に馴染みが薄かったころのことです。

その後『ねぼすけスーザとやぎのダリア』(1992年9月号)へて、1995年に刊行されたのが第3作『ねぼすけスーザとあかいトマト』(1995年5月号)です。スペインの人々の「食」に欠かせない真っ赤なトマト。マリアおばさんが畑で大切に育てたトマトを、市場で売るためにスーザが大活躍する物語。絵本を眺めていると、トマトを丸かじりでカプリとやりたくなってしまいます。

DSCF4674このシリーズは、スペインの農村の自然、明るく素朴でのんびりとした人々の暮らしぶりにほれこんだ作者の広野多珂子さんが33年の長きにわたり描き続けたもので、2014年9月号の第7作『ねぼすけスーザときいろいリボン』で完結しました。

1991年の第1作刊行時、「この絵本は、私の心の中で様々なスペインお好きな部分がくっつきあいながら生まれた」と語っていた広野さん。その後も1作描くたびに次の作品が描きたくなり、気がついたら7つの物語を子供たちに届けていたそうです。でも、そんな広野さんにも、スーザがどうしてマリアおばさんとふたりきりで暮らしているのか?その絆の強さの理由?スーザのお父さんとお母さんは?といったふたりの関係はわからないまま、描き続けてきたといいます。

第7作『ねぼすけスーザときいろいリボン』としてシリーズが完結するとき、広野さんは「やっと、はっきりしてきた」とスーザとマリアおばさんの絆の背景にある意外な真実を「作者のことば」として寄せられています。スペインで1936年から39年にかけておこった内戦、そこでスーザのお父さんとお母さんは命を落としたのではないかというのです。マリアおばさんも内戦で夫を亡くしたのではないかと思うと……。そこにスーザとマリアおばさんの強くかけがえのない絆の理由があったのではないかと。

DSCF4683

作品を描き続けることで、作者自身が登場人物のことを本当の意味で理解するに至る。読者からするとなんだか不思議な感じもしますが、大人になった今、そんな背景を知ってシリーズを読み返すと、子どものころ第1作『ねぼすけスーザとおかいもの』を手に取ったときとは、違った思いが心をよぎるかもしれません。広野さんは、「私が描きたかったスーザの世界は描き終えました。スーザとともに生きた33年はとても幸せでした」と、「作者のことば」を結ばれています。そんなことばを聞くと、きっとスーザもマリアおばさんと幸せだったに違いないと妙な確信をもってしまいます。作者自身が、登場人物と共に長い歳月を生きる。そんな絵本づくりも「こどものとも」ならではのことなのかもしれません。

バックナンバー

  • こどものとも60周年なんでもニュース