あの年に生まれた「こどものとも」

1990年 駅は今も昔も人間模様をうつす場所『でんしゃがまいります』

DSCF4180人々で混雑する駅のホームと、今よりは少し広い空を感じさせる駅前のビル群。「この駅、どこかでみたことがあるような?」そんなことを思ったかたもいらっしゃるはずです。そう、1990年の1冊としてご紹介するのは、日本で一番乗車人員が多い新宿駅のホームの一日を舞台にした『でんしゃが まいります』(1990年10月号)です。

早朝まだ暗いうちから、駅に新聞を運びこむ人。人がまばらだったホームは朝7時をすぎると、通勤客でごったがえします。慌てて電車に駆け込むサラリーマンがいれば、混雑した電車から降りられない人もいます。あら大変! 線路に女の人の靴がおちてしまいました。駅員さんがなにやら細長い道具を取り出しました。

DSCF4181本作は作者の秋山とも子さんが、国鉄が民営化された1987年から2年間にわたり新宿駅を朝昼晩とスケッチしてできあがりました。ページをめくると、朝昼晩と変化するホームの風景、駅員さんをはじめ売店や清掃など駅で働くたくさんの人々の様子が細かな描写とともに描かれています。秋山さんは、甲府方面に向かう当時の5番線ホームと、東京方面のオフィス街に向かう6番線ホームを利用する人間模様の違いにも注目し、作品の中でその空気感を見事に描きわけています。

DSCF4183「切符を切る」が、子どもたちにとって馴染みが薄い言葉になりました。電車の色や座席の配列も今とは随分変わっています。当時はなかった転落防止のホームドアの設置もどんどん進んでいます。乗客がホームに並びながら手にするのは、新聞や雑誌ではなくスマートフォンです。30年前とは、全国どの駅でも見られる風景はきっと変わってしまったことでしょう。

でも、今だって駅で迷子になった子どものお母さんを探してくれる優しいおばさんはいます。駅の混雑に腹をたてているおじさんも、安全のために線路の点検をする作業員さんも、夜のホームをほろ酔いで歩くお父さんも……。30年のときをこえて、毎日何気なく利用している駅が人間模様をうつす舞台のような場所であることに気付かされます。

『でんしゃが まいります』は、現在「こどものとも絵本」としてハードカバー版を手にとっていだたくことができます。絵本を楽しんだあとは、子どもたちとお近くの駅にでかけて、昔と今の違いはもちろん、子どもたちにとっての「今の駅」の風景や人間模様を、秋山さんのように観察してみてください。きっと面白い発見がありますよ。

1990年度には、映像作家としても知られるたむらしげるさんの『ロボットのくにSOS』(1991年1月号)が登場します。映像の絵コンテを思わせるようなコマ割りの手法で描かれ、SFの空気感と漂わせたこの作品を、鮮明に記憶されているかたも多いようです。こちらの作品もハードカバー版として手にとっていだたくことができますので、ぜひお子さんと一緒に楽しんでみてください。
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