あの年に生まれた「こどものとも」

1981年 子どもの「時間」を表現した話題作 『なおみ』

1「読み聞かせの後、子どもたちは強烈な印象を受けたようでした」「4才児のころに出会ったこの本をきっと忘れないだろうと思います」
『なおみ』が1982年1月号として刊行された当時、こんなお便りが編集部に寄せられました。おそらくこの絵本を読み終えたあとは、子どもだけでなく、大人も同じような感想を抱くのではないでしょうか。

『なおみ』は6才の私と、“私の生まれるずっとまえから私のそばにいた” 日本人形の「なおみ」の交流と別れを描いた写真絵本です。手がけたのは、詩人の谷川俊太郎さんと写真家の沢渡朔さん。

2『なおみ』の制作は、「時間」を主題にしたいとの編集部の要望に谷川さんがこたえるかたちではじまりました。谷川さんはこれまでに「かがくのとも」で『とき』という絵本を太田大八さんと作られていますが、それは時間を太古から現在の瞬間まで、いわば時の流れを一本の線で扱った作品でした。
『なおみ』で表現した「時間」とは、子どもの「時間」です。
人間そっくりの姿かたちをもっていながら、人間とは違って生まれも育ちも死にもしないもの、いわば凍りついたような時間を生きている人形と、やがて大人になる時間の流れを生きている少女、そのふたつの存在の交流と対比のうちに、時間をとらえることはできないだろうか……編集者からの依頼を受けて、谷川さんの中ではこんな着想が育っていったといいます。
その着想と沢渡さんの写真、そして人形作家の加藤子久美子さんの作る日本人形のイメージがうまく重なることで、美しい写真絵本「なおみ」が生まれたのでした。

3しかし刊行当時、「なおみ」が放つ独特の雰囲気や、人形であるはずなのに陰影によって変化する表情が怖く、子どもが絵本を読めないといった声も、編集部に届きました。さらには「これは本当に子ども向けの本なのか」といった議論もおきたのでした。さまざまな意味で話題を巻き起こした絵本『なおみ』。この絵本が出た頃の年長さんは現在30代になります。園児の時に怖かった思いをし、絵本を見ることができなかった方たちも、今改めてこの作品を開いてみると、当時気づくことができなかった物語の本質や美しさを感じとることができるかもしれません。
『なおみ』は一時ハードカバー化されたものの、残念ながら現在は購入いただくことができません。お近くの図書館などで見つけた際は、最初から最後まで、「時間」を感じながらじっくりと読んでみてはいかがでしょうか。

この年は他に、『ねことらくん』(4月号)、『サラダでげんき』(5月号)、『おなかのすくさんぽ』(6月号)などが刊行されました。4

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