あの年に生まれた「こどものとも」

1977年 字のない絵本『おふろやさん』

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11月号で西村繁男さんが初めて描いた字のない絵本『おふろやさん』が刊行されました。『おふろやさん』は、当時、町のあちこちにあった銭湯を描いた絵本です。

家族でお風呂屋さんに出かけたあっちゃん。立派な屋根と高い煙突のお風呂屋さんに入り、脱衣所で服を脱いでお風呂場へ。たくさんの人が身体を洗ったり湯船につかったりしています。湯船の上には富士山と松林の絵。あっちゃんは身体を洗い、ともだちと少し湯船で遊びます。お風呂を出たら、服を着て牛乳を1本飲みます……。DSCF3956

西村繁男さんは『くずのはやまのきつね』(1974年10月号)で1作目の絵本をてがけていました。この作品は大友康夫さんが物語を作ったので、2作目は物語も自分で……と考えていたものの、物語を作れずどうしたものかと悩んでいました。

そんな折、五十嵐豊子さんの『えんにち』(1973年8月号)で字のない絵本を見て、興味を持っている世界を絵に描きこめば絵本になるかもしれないと考えるようになったのです。

西村さんはこの頃まで、世間の流行を察知し、それに合わせた絵を描こうと腐心していましたが、字のない絵本の題材を考えるにあたり、「ぼくらしい絵」とは何だろうと考えるようになります。そして、流行を追うよりも、生活感が漂う普通の場所にいるときの方が落ち着くと感じ、日常の場を描くことこそが、「ぼくらしい」のではないかと思うようになったそうです。

そんなとき、展覧会に銭湯の絵を描いて出品したところ、福音館書店の編集者が「これで絵本を作りましょう」と声をかけ、『おふろやさん』が誕生しました。西村さんは、もともと人の様子をじいっと見ることが好きで、絵本の人々を描きこむにあたり、ひとりひとりにちょっとした物語を考えながら描いたそうです。ひとつの世界にいろいろな人の物語が混在している日常を、少しひいた視点から描くことこそが、西村さんの「ぼくらしい絵」だったのでしょう。DSCF3953

読み手が物語を想像できるほどに細かく描かれていることが大切な、字のない絵本。西村さんの「ぼくらしさ」を体現できた本作では、絵が語ることの楽しさを子どもたちに改めて伝えることができたのではないでしょうか。

1977年度はほかにも、なかのひろたかさんの『3じのおちゃにきてください』(4月号)、安野光雅さんの字のない隠し絵の絵本『もりのえほん』(10月号)、梶山俊夫さんが画を手がけた『さんまいのおふだ』(1月号)などが刊行されました。DSCF3959

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