あの年に生まれた「こどものとも」

1979年 写真に映し出された夜の病院のリアルさ『よるのびょういん』

1979_01朝からお腹がいたいと言っていた「ゆたか」、夜になり高い熱が出たので、お母さんは119番で救急車を呼びます。病院につくと、当直の先生が階段をかけおりてきました。聴診器でみてからゆたかのおなかを押すと、ゆたかの体はエビのように曲がります。「すぐに手術だ!」手術室では、緊急手術の用意が整いました。ゆたかは盲腸炎だったのです。先生がはげましてくれますが、やっぱりちょっとこわい。手術中、勤務先からお父さんもかけつけます。心配のあまり顔が険しいお父さん。そして、ゆたかの手術は無事終わりました。お母さんの目には涙が……。

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夜の病院は静かです。けれどそこには、眠らずに働く人たちがたくさんいます。病室を見回る看護師さん、地下のボイラー室で夜通し起きているボイラーマン。重い病気の人たちを休まずに見守る集中治療室のスタッフ。ひとりの当直医が100人の入院患者を受け持つことも普通のことです。

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この絵本は、はじめ「よるのしごと」という題名でした。子どもたちが眠っている間にも、たくさんの大人たちが働いていることを写真で伝えたいと企画されました。ただ、さまざまな仕事を並べただけでは、おもしろくありません。そこで、子ども自身を何らかの形で夜の世界にかかわらせたいと考え、夜の病院が舞台の絵本となったのです。現実の救急患者を写真で記録するのは不可能なので、この絵本に出てくる家族は俳優たちです。ですが、状況の設定は事実に即しています。ゆたかがかかった盲腸、つまり急性虫垂炎は、当時も死亡率0パーセントだったようです。読者である子どもたちに無用の恐怖感を与えることなく緊迫感を出すための設定でした。

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写真を担当したのは、市川崑監督の記録映画「1964年東京オリンピック」にも参加したカメラマン・長野重一さん。文章は、同映画に脚本家として参加した詩人の谷川俊太郎さんです。この絵本は、本当の病院を撮影したものですが、事実をそのまま写し取ったものではなく、さまざまな写真の技法を使って表現したフィクションです。フィクションではありますが、夜の病院で働く人々の姿を克明に映し出したリアルな写真絵本なのです。

この年には他にも、『ぐりとぐらのえんそく』『あさえとちいさいいもうと』といった今でもたくさんの読者に愛されている作品や、『やこうれっしゃ』という文字のないユニークな絵本も刊行されました。

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