あの年に生まれた「こどものとも」

1980年 私たちの暮らしをささえる「おみせ」や町の変化 『おみせ』

DSCF3750文房具屋さん、傘屋さん、駄菓子屋さん、畳屋さん、今ではめずらしくなった、路面に立ち並ぶ「おみせ」が、人々の暮らしの息づかいとともに描かれた、字のない絵本『おみせ』(1980年9月号)。店先の商品、看板の文字、お店の人、お客さんと、細かい部分まで描きこまれ眺めていて飽きません。他にも、瓦葺、木の梁、なまこ壁、美しい格子戸など、それぞれの店がまえの伝統的な建築様式も見ごたえじゅうぶんです。

DSCF3754それもそのはず! 本作は画家の五十嵐豊子さんが、建物の耐久年数や生活様式によって、200年、300年と続いた商家が取り壊され、建てかわっていく時代の流れを感じ、「今描かねば」と半ば追い立てられるような気持ちで描いた作品でした。1980年9月号として刊行された当時も、懐かしさや変わりゆく町並みについて反響がよせられました。ちょうど、1974年にはコンビニエンスストア1号店「セブン-イレブン」が開店、ダイエーなどの大型スーパーの進出も相次ぐ中、人々の暮らしを支える「おみせ」のありかたも大きく変化していった時期でもありました。

DSCF3761五十嵐さんは、どの「おみせ」の絵にも、スケッチをしていたそれぞれの土地の懐かしい思い出があるといいます。ひな祭の日、「女の子の孫が生まれて、うれしうて、うれしうて」と、スケッチをしていた五十嵐さんに巻きすしとお茶を届けてくれたのは、倉敷市のおばあさん。寒さの中スケッチをしていた五十嵐さんを局内に招きいれおそばを取り寄せてくれたのは、函館の郵便局長さん……。そして子どもたちは、どの町でも元気で、好奇心が旺盛だったそうです。

あれから36年の月日が流れ、さらに町の風景は激変しました。「おみせ」といえば、郊外の大型ショッピングモールや24時間営業のコンビニエンスストアが当たり前となっている現代の子どもたちには、ちょっと不思議な風景として映るかもしれません。しかし、今の子どもたちが目にする「おみせ」にも、人々の暮らしの営みがあり、子どもたちは昔とかわらずその中で小さな思い出を積み重ねていることでしょう。ショッピングモールのフードコート、レジへの行列、コンビニのお菓子売り場や、カップ麺にお湯を注ぐポット……30数年後には、そんな風景を懐かしい「おみせ」として、暮らしの記憶とともに思い出す日がやってくるかもしれません。

DSCF3768五十嵐豊子さん作品には、1973年8月号として刊行された『えんにち』があります。こちらも『おみせ』と同じく字がない絵本ですが、金魚すくい、とうもろこし売り、お面やさんなど、こちらも夏の夜の懐かしい思い出とともに楽みたい作品です。

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