あの年に生まれた「こどものとも」

1970年 『ウォーリーをさがせ!』に先駆けること17年 『とこちゃんはどこ』が生まれた年

DSCF3783赤い帽子をかぶった小さな男の子とこちゃんが、お母さんやお父さんと市場、動物園、海水浴、デパート、夜店と、色々な場所におでかけします。でもそのたびに、好奇心いっぱいのとこちゃん、とことこかけだして……。『ウォーリーをさがせ!』(フレーベル館)に先駆けること17年、絵探しとしても子どもたちに今でも人気の『とこちゃんはどこ』は刊行されました。手がけたのは、「うさこちゃん」シリーズの翻訳や、『おふろだいすき』の文でもお馴染みの松岡享子さんと、「だるまちゃん」シリーズの加古里子さんでした。

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当時、ご自宅で文庫をひらいていた松岡さんは、小さな子どもたち、特に男の子が、『絵本百科』(平凡社)の細かくびっしり描かれた絵をとても熱心に見るということに気がつきます。友だち同士で、頭をつきあわせては、ときどき絵のあちこちを指でおさえながら、いつまででも見ています。大人にとっては、ごちゃごちゃして情報量が多いようにも感じる絵。でも、子どもたちはそんなことに煩わされず「自分の見たいものをまっすぐにとらえる特別な能力」があるかのようだったと、松岡さんは当時語っています。

そんな松岡さんの気づきと加古里子さんの絵が一体となって生まれたのが、<見るものがいっぱいある絵本>、『とこちゃんはどこ』でした。海水浴の場面を眺めてみてください。とこちゃんを見つけたあとも、子どもたちにとっては見るところがいっぱいです。浮き輪をつけて泳ぐ子ども、スイカ割り、砂遊び……。お母さんに「もう帰るのよ」とたしなめられている小さな男の子に目がいく子どももいるでしょう。子どもたちにとって身近な日常が、絵になっているからこそです。自分が知っていることを、絵本の中にみつける喜び。絵探しと同時に、そんな満足感を子どもたちに心ゆくまで味わってもらいたい。そんな思いも松岡さんの中にはあったようです。

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1970年には他にも『ぶたぶたくんのおかいもの』(1970年10月号)が刊行されています。彫刻家で民族学者でもあった土方久功さんの『ゆかいなさんぽ』に続く3作目の絵本でした。丸々としてちょっととぼけたぶたの「ぶたぶたくん」が買いものにでかける、子どもたちにとって身近なテーマの絵本です。一方で、パラオなど南洋地域への造詣が深かった土方さんならでは絵画表現によって、子どもたちに身近な日常に、どこか別世界の風景や人々が混じり合う独特の魅力的をもった作品となっています。

この年のラインナップには『ねむりむし じらぁ』(1970年11月号)という、琉球の昔話・民話がおさめられた「遺老説伝」からの再話が、沖縄出身の儀間比呂志さんの力強い版画で登場しています。日本本土でも多く語り継がれている「三年寝太郎」などとも類似点の多い物語ですが、琉球独特の衣装や民家の佇まいは、当時の子どもたちにどんな風に映ったのでしょうか。戦後25年を迎えたこの年、沖縄返還はそれから2年のときを待つことになります。

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