あの年に生まれた「こどものとも」

1969年 小さな悪魔のためのお話『かさもって おむかえ』

人類史上はじめて月面着陸に成功した1969年。この年の作品の中からご紹介するのは、『かさもって おむかえ』です。1969_01

夕方になって、急に雨が降り出したので、かおるは、かさを持ってお父さんを迎えに駅に行きました。でも、待っても待っても、お父さんは下りてきません。外はもうすっかり暗くなってしまいました。そのとき、おれんじ色のとらねこがかおるに声をかけてきました。

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お父さんがいつも地下鉄から乗り換える駅まで一緒に行ってやると言われたかおるは、急に楽しくなって、電車に乗るためにホームへ向かいます。ホームにやってきた電車は、4両目だけほかの車両と色が違います。なんとその車両だけ動物専用車だったのです。くま、おおとかげ、さる、かば、いのしし……。かおるは、そわそわしながら座っています。お父さんに本当に会えるのでしょうか……?

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この絵本の文章を書いた征矢清さんは、当時、福音館書店編集部に勤務しながら創作活動をしていました。その活動を日々邪魔していたのが、小さな悪魔と親しみをこめて呼ぶ娘。幼いわが子の相手をしながらの創作活動はむずかしく、それならばいっそ、相手の世界に入り込んで、その中で仕事をしたらどうだろうと考えます。その日から、征矢さんの書くお話にはひとりの小さな女の子が登場します。それが、『かさもって おむかえ』の主人公でもある、かおるです。征矢さんは、日々の生活の中で、ひとりの父親として、あれもこれも娘に伝えたいと思い、それを童話というかたちで表現しようとしました。特に、子どもをおびやかし圧迫するものが多い時代に、子ども自身がそれに立ち向かう力を与えたいと願い、『かさもって おむかえ』もそんな気持ちから生まれた作品です。ひとりで電車に乗って遠い駅まで行くのは、幼い子どもにとって、とても勇気のいること。それをやりとげた本当の喜びをわかってもらいたい、そんな気持ちがこの絵本には込められています。

長新太さんが征矢さんの物語の中で描いた小さな女の子は、1場面だけ横顔が見えますが、あとはすべて後姿で、表情が見えません。その小さな背中は、とらねこに会って楽しくなった気持ちやお父さんに会えるか不安な気持ち、やっとお父さんを見つけてほっとした気持ちを雄弁に語ります。あたたかくユーモアあふれる長さんの絵が、とらねこに導かれて動物専用車に乗りこむという冒険の世界に、子どもたちを連れて行ってくれるのです。

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また、1969年は、物語絵本「こどものとも」と同じ対象年齢の子どもたちに向けた科学絵本「かがくのとも」が創刊された年でもあります。テレビで宇宙中継が行われ、超音速ジェット機が飛ぶ時代に、うまれつき子どもたちがもっている好奇心という名の科学の芽を、さらに伸ばしていくような絵本を目指したのが、「かがくのとも」です。その刊行により物語の世界(「こどものとも」)と、科学の世界(「かがくのとも」)、その両方を子どもたちに思う存分味わってもらえるようになりました。

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