長谷川摂子さんと絵本作家

【第11回】佐々木マキさん|「最初の読者はぼくだ」というのが、マンガをかいていたときからある

佐々木マキ3「最初の読者はぼくだ」
長谷川 前回に引き続き、『やっぱり おおかみ』の話をしたいんですけど、あれは、孤独なおおかみが、いろんな所をうろついた末、個として生きる決心をする話で、口で言うとむずかしいけど、子どもって、自分の頼りなさをどこかで感じているから、あの絵本、ピンとくるみたいですね。
佐々木 そうですか。
長谷川 小学校4、5年ぐらいになると、はっきりわかるという感じで、おおかみと共感できるし、幼い子どもたちだと、絵そのものがおもしろくて、じいーっと見ている。みんなブタばかりの中で、おおかみが一人。みんなヤギばかり、みんなシカばかり。どこでも、おおかみは一人という絵を見ていると、絵そのものに、幼い心に訴えてくるものが強くある。いろんな角度から、いろんなふうに心理的に響いてくる絵という感じ。そこに、佐々木さん独特のマンガ観が生きていると思うのですが、マンガから絵本に移られたのは?
佐々木 そうですね。マンガをかいているときと、気持の上では、そんなに差はなかったですね。割に自然に、マンガの延長みたいにやれた。絵本をやりたいと思ったのは、まず、色のついた絵を、いい紙にかきたいって思ったんです。マンガって、だいたい紙が悪いでしょ。
長谷川 やっぱり、思う存分、絵を描きたいというお気持で……。
佐々木 ええ。それで、美大のときの、秋野不矩先生が松居さんに、そのことを言ってくださって、松居さんが会ってくださったんですよ。『ガロ』に載せた作品を松居さんがおもしろいって言ってくれたんで、それからせっせとかいたんです。
長谷川 子どもを読者にするという転換は?
佐々木 そうですね。絵本も、子どものためにとか、自分と別の所に子どもというものを置いて、その人たちにわからせようというふうには思ってなかったんですよね。「最初の読者はぼくだ」というのが、マンガをかいていたときからある。ぼくが子どもなら、こういう絵本がほしいというような……。技術的な問題は、もちろん考えるわけですが、根本的な発想のときは、要するに、ぼくが見たいものという……。

◇ムッシュ・ムニエルのシリーズなど
長谷川 次にかかれた絵本は、『ぼくがとぶ』ですが、これにしても『ムッシュ・ムニエルのサーカス』にしても、終わり方が、すごくいいんですよね。ムッシュ・ムニエルの最後は、月の世界にすっとんで行きながら「それじゃ、またあおう、グッドバイ!」。子どもの絵本の、よくあるハッピー・エンドじゃない。でも、すごく胸がすかっとして納得しちゃう。こんな終わり方、佐々木さんの感性ならではって感じですね。それから、ムニエルが登場する街というのが、なんかゾクッとするような雰囲気があって……。
佐々木 
どこにもない街とか、どこにもない風景とかを、かいてみたいというのがあるんですよ。
長谷川 
これは確かに、どこにもない街だけど、なんとなく西洋ですね。アメリカかな?
佐々木 
ええ。ぼくの感じでは、20年代なんですよね。走っている車のスタイルとか。
長谷川 
そうか、この女の人の服装は禁酒法時代ですね。そのころのアメリカの雰囲気。ちょっと薄暗くて、ロマンチックで、そのくせ、どこかで、パーンとピストルの音がするような乾いたこわさがあって、佐々木さんの感性と20年代が一致するの、わかるような気がするんですが、ご自分では、どんな感じで、そこにひかれていらっしゃるのかしら?
佐々木 
いわゆる「絵になる」っていう感じなんです。男も女も車も、とてもおしゃれで。現代の風俗は、あまりにも卑近で描く気がしないので、20年代を代わりに借りるわけです。
長谷川 
ムニエルが唱える秘密の呪文というのが、おかしくて。そのたびに読み方を変えたりして、楽しみにしてるの。『ムッシュ・ムニエルをごしょうかいします』では、「ほむんくるす、ほむんくるす……うまはきゅうりのさらだをたべない」。『ムッシュ・ムニエルのサーカス』では、「コスモス ヒネモス ノタリコン」とか、「アンチノミー・アンチモニー」「ヘコタレテ ネクタレル ネブカドネザル」、ともかくおもしろいの。「カモノハシ カモノマイハウス マイマイツブリ」なんて、歌っちゃって。(笑)こういうことは、しょっちゅう頭の中に?
佐々木 
そうですね。そういうことを考えるのが好きですから。役に立たない言葉遊びみたいなものを、書きつけておくノートがあって、採用されたのは、ごく一部でね、ボツになった呪文がたくさんあるんです。
長谷川 
それは、この絵本を作ろうと思ったときからじゃなくて、前から?
佐々木 
そうです。上から読んでも下から読んでも同じとか、そういうのを考えるのが好きなんですよね。もう40代になりましたけど、まだ割と、子どもを引きずってるみたいです。だから、「最初の読者はぼく」と、前に言ったのも、自分の中の子どもが読みたがるんでしょうね。
長谷川 
遊園地とかサーカスとかも、佐々木さんの独自な世界に、ちゃんと位置づいていますね。
佐々木 
ともかく、そういう非生産的なことが大好きなんです。(笑)
長谷川 
萩原朔太郎の『遊園地』の詩なんかを思い出したりして。
佐々木 
“るなぱあく”ですね。
長谷川 
そう。妙に非現実的で、どこか寂しいの。今度、ムニエルの本がハードカバーになって出るそうですね。 年少版の『はいいろこくのはいいろひめさま』と、次の『はいいろひめさまかぞえうた』、デザイン的にも、とてもすてきですね。灰色がすごくきれいだし、部分的につけている他の色が、うまく考えられている。お姫様と灰色という組み合わせがおもしろい。どうやって、こんな発想が出てくるんですか。
佐々木 
いや、灰色の国があったら、おもしろいだろうなと思ったんですよ。そこにあるものは全部灰色。要するに色彩のない世界です。
長谷川 
そこに、赤いねこがやってくる。この登場の仕方がいい。まず灰色のベースがあるから、色が効いてくる。
佐々木 
色の絵本を作らないかと言われたときは、ちょっと困りましたよ。もう既に、いろいろ出ているでしょう。
長谷川 
色をテーマにした絵本はたくさんあるけれど、これはユニーク。ピンクのぞうとか、紫のりゅうとか、子どもには、かなり印象的なようでしたね。『はいいろひめさまかぞえうた』の方も、いろいろ工夫されていて楽しいし、ともかくスカッとした配色がいい。今年の2月号年少版で『ねこ・こども』が出て、8月号年少版で『おばけがぞろぞろ』。このごろ、年少版にかなりのられているみたいですね。
佐々木 
ますます論理から離れていくというか、感覚で勝負したいというふうな気持になっています。年少版は、おもしろいですね。佐々木マキ2

(終り)

オレンジ罫線2ンタビューを終えて-長谷川摂子
インタビューというのは自然に反する出会いなので、その不自然さをぐっとこらえないと始まりません。でも佐々木さんは終始その不自然さへのはにかみをたたえ、ポツリポツリと話してくださいました。外界に対するこんな正直さが、彼の内面の激しさと豊かさを支えてきたのでしょう。若いころ、身をよじるように激しいマンガをかき、今楽しそうに年少版絵本を作っている佐々木さんに、20年の心の軌跡を感じましたが、彼は静かな微笑の下にそれを深く埋めているようでした。

オレンジ罫線2
2佐々木マキ(ささきまき)1946年〜

1946年兵庫県神戸市生まれ。京都府在住。絵本に『やっぱり おおかみ』『まじょのかんづめ』『はぐ』(以上福音館書店刊)、『ぼくがとぶ』『ムッシュ・ムニエルをごしょうかいします』(以上絵本館刊)などがある。

人物写真・浅田政志

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